温まりのにごり湯と、火山がもたらす東北の温泉文化

 深々と雪が降る。川岸に降り積もった雪が、白いオブジェのように不思議な自然の造形を創りだす。垂れ下がるつらら。雪の花。一昨年の冬、秋田県の乳頭温泉「孫六温泉」に泊まったときに見た光景だ。一面に広がる銀世界を、ほの暗く照らすランプの明かりに導かれ、露天風呂へと向かった。水音しか聞こえない静寂の中、にごり湯に浸かる。ちぢこまった体に、にごり湯がじんじん浸透してくる。これぞ温泉の力だ。東北のにごり湯は冷えた体と心に効く、温まりの湯だ。
改めて調べてみると、東北の温泉は火山と関係が深い。東北の脊せきりょう梁というべき奥羽山脈は、東日本火山帯の一部である那須火山帯に含まれており、八甲田山、八幡平(はちまんたい)、岩手山、栗駒山、蔵王連峰、吾妻(あづま)連峰、安達太良山(あだたらやま)などの火山を有する。

 温泉には火山性のものと、非火山性のものがあるが、東北のにごり湯は必ずしも火山と関連するものばかりではない。しかし地図を見てみると、奥羽山脈沿いに有名な温泉郷が点在していることに気づくはずだ。火山が東北の豊かな温泉文化を生みだしてきたのだ。
例えば、八甲田の酸すかゆヶ湯温泉。ヒバ千人風呂の巨大さもさることながら、口に含むと思わず「酸っぱ!」と声を出してしまうほどの酸性泉が特徴的だ。以前ここに宿泊した時、朝風呂の素晴らしさに感動したことがある。薄暗い湯小屋に朝の光が入り、白濁した湯を照らすと、湯気に包まれたおじいさんの姿がぼんやり浮かび上がった。「ああ、美しいなあ。東北の温泉っていいなあ」と感じた瞬間である。聞けば、毎年冬の時期に1週間ほど逗留し、湯治をしているという。湯治のおじいさん、おばあさんと話していると、温泉の身近さが東北の特徴だと感じられる。ちなみに打たせ湯では、隣にお婆さんが座っていて、今も混浴文化が守られていることに驚かされた。

 山形蔵王の温泉街もまた、にごり湯が有名だ。良質な湯浴みが味わえる場所で、上湯、下湯、河原湯と3つの共同浴場があり、道路脇の側溝にも温泉が溢れていて、硫黄の匂いが立ち込めた温泉街をそぞろ歩くのは実に気持ちいい。
宮城県で、にごり湯を楽しむなら鳴子温泉郷をおすすめしたい。日本にある11種のうち実に9種類もの泉質が存在する温泉地で、乳白も黒も赤もグリーンも、なんでも揃うにごり湯のデパートだ。例えば鳴子ホテルは、湯守5人24時間体制で源泉を管理しており、敷地内の3本の自家源泉から自然に温泉が湧き上がる自噴式。バルブを開けると「ゴォー」と轟音が響き渡り、一面は湯気に包まれる。湯はフレッシュであるが故に七色に変わり、今日は白緑、明日は翡翠と、微妙な変化を愉しめる。温泉郷全体で400近い源泉があり、湯の多様さと豊富さでは全国でも有数であろう。

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 そして東北で唯一、源泉かけ流し宣言を行っている福島市の高湯温泉で、源泉管理の方法を見せてもらったことがある。無色透明で湧き出た源泉は、約50mの木樋を下りながら、空気に触れ、湯華を生みだし、浴槽に注ぎ込まれると乳白色に変化した。硫化水素が多く含まれた湯は、空気に触れる度に酸化し、硫黄を生成する。硫黄はお湯の中でコロイドという微粒子のかたちになり、太陽光が当たると、ミー散乱を起こす。それによって人間の眼には白色に見えるというのだ(雲が白く見えるのと同原理だとか)。色の変化もさることながら、高湯温泉では源泉のフレッシュさを保ち、還元の力を最大限に発揮するために、徹底的に源泉を管理していた。江戸時代から伝わる伝統的な手法を守りながら……。
東北の民は湯を大切にし、温泉文化を育んできた。過酷な冬をにごり湯とともに乗り切ってきた。そんな歴史と厳しい自然に思い馳せながら、この冬、東北を旅してほしい。

本内容は、男の隠れ家2015年2月号(2014年12月27日発行)から掲載内容の一部を
再編集した、東北観光推進機構と男の隠れ家によるコラボレーション企画です