混浴ヒバ千人風呂の白濁湯に包まれて東北の温もりを染み渡らせる

160畳の総ヒバ造りの千人風呂。木の香に抱かれたその圧倒的な開放感ととめどなく溢れる白濁の湯。数少なくなった混浴スタイルが今も大切に守り伝えられているのも、この宿の魅力の一つだろう。
雪の季節こそ美しい八甲田山の森。その自然に抱かれた一軒宿に足を運んだ。

文◎岩谷雪美  撮影◎佐藤佳穂

雪のアプローチを楽しみつつ 八甲田山に抱かれた名湯へ

 巨大な混浴風呂「ヒバ千人風呂」の知名度とともに、豪雪のニュースではいつも真っ先にその名が登場する青森県の酸ヶ湯(すかゆ)温泉。事実、平均積雪量は3~4mを超え、真冬は木々も建物も何もかもがすっぽりと真っ白い世界に埋まってしまう。宿が建つのは八甲田山連峰の主峰・大岳(おおだけ)の西麓、標高925m地点。十和田八幡平国立公園の北部に位置し、夏や秋は登山、冬はスキーなどが楽しめる高原地帯だ。
 以前は冬季閉鎖していたが、1982年(昭和57)に青森からの国道に毎日除雪車が入るようになってからは通年営業が可能に。道は送迎用の大型バスも通れるほどなので、冬場のアクセスも問題はない(十和田湖方面からの道は冬季通行止め)。

 青森の市街地から車を走らせてくると、ひとカーブごとに雪がどんどん深くなってくるのがわかる。あたりはブナやアオモリトドマツが鬱蒼(うっそう)と茂る八甲田の森。車窓に映り込む、雪の精のような木々や雄大な雪山の稜線……。そんな美しい雪道のアプローチを楽しんでいると、目の前に忽然と酸ヶ湯温泉の建物が現れた。山小屋風の三角屋根が印象的。何台もの車が雪を被って止まっている様子を見ると、長逗留の人も少なくないのだろう。人気の温泉だけに季節を問わず賑わっているが、特に農閑期の冬場は地元の人たちが長く湯治に訪れているようだ。
 酸ヶ湯温泉は山の一軒宿だが旅館部と湯治部に分かれており、前者が50室、後者は80室もある大型施設。チェックインの際にもらった館内案内図を見ると、大浴場や食堂のある本館をはじめ、客室は一号館から七号館まであって迷ってしまいそうなほどに入り組んでいる。
「建物は増築を重ね廊下で結ばれています。一番古いのは昭和初期に建てられた二号館ですね」と話すフロントスタッフ。主な建物は昭和の木造建築。国立公園内の特別保護地域にあるために簡単に改築ができず、それが昭和レトロの趣を残す結果となった。拭き込まれて飴色に光る廊下や階段、雪見障子のあるいい味わいの客室。簡素ながらも落ち着ける湯治棟。今回、部屋では時を忘れて読書三昧を愉しんだが、そんな時間もこの懐かしい空間にはよく似合う気がする。窓の外はしんしんと降り積もる雪。軒先の氷柱も寒さとともに風情を伝えている。

 また、長逗留において嬉しいのが、品数充実の売店や喫茶室、青森名物のしょうが味噌おでんやそばが味わえる食事処などが揃っていること。さらに看護師が常駐する温泉療養相談室まであり、個々に合った入浴法を伝授してくれる。
「ここの温泉はね、長~く湯治をしてこそ効くんだわ。私はもう1週間ほど居るけど"三廻り十日"っていうのがいいみたいですよ」とは、廊下ですれ違ったおばあちゃん。津軽半島の三厩(みんまや)から毎年来ていると言い、農作業で痛めた足腰がずいぶんと楽になったそうだ。
 相談室で詳しく聞いてみると、"三廻り十日"とは酸ヶ湯が提唱する入浴法。高地という場所がまずいいらしい。高山気候と空気が体の細胞を活発にし、さらに温泉に入ることで血行が良くなり相乗効果を発揮。それを3日間を一廻りとして三廻り、10日を目安に湯治をすることでより免疫力が高まるという。
 もちろん、一晩だけの滞在でも温泉の心地よさは十分に堪能できる。それほどここの湯は素晴らしく、また圧倒的なスケールの千人風呂、今は貴重な混浴の文化、そして郷土の味など魅力は尽きることがない。

本内容は、男の隠れ家2015年2月号(2014年12月27日発行)から掲載内容の一部を
再編集した、東北観光推進機構と男の隠れ家によるコラボレーション企画です