河童伝説の郷に湧褐色の炭酸泉が肌にささやく

多くの恵みと、時に水害をもたらした野尻川。古より伝わる河童伝説と滔々と湧く源泉を守り続けてきたのが、恵比寿屋旅館だ。
鉄分を含んだ「玉梨の湯」と、非常に珍しい炭酸温泉「中井湯」。
2つの源泉で体がほぐれ、家庭的な雰囲気と郷土料理が心もほぐしてくれる。

文◎浅川俊文 撮影◎黒田雄一

家庭的な距離感の接客は
親戚の家にいるかのよう

 河川による水害が起こると、古の人々は河童のいたずらと考えた。玉梨温泉を滔々と流れる野尻川は豊かな恵みをもたらす反面、時に氾濫して人々を翻弄した。江戸時代、寛永・文政の度重なる大洪水によって川は大きく姿を変えた。その頃には難儀する村人たちを案じた遊行僧が河童退治のために、大石に梵語(ぼんご)で呪文を刻んで村を立ち去ったとも伝えられている。この河童伝説を語り継ぎたいと、「恵比寿屋旅館」は源泉かけ流しの湯を「河童の湯」と呼んでいる。すぐそばから湧くこの湯は鉄分を含んで赤褐色に濁り、体を心地よく温めてくれる。

 また、恵比寿屋旅館は別の源泉「中井湯」も引いている。こちらは珍しい炭酸温泉。湯中の二酸化炭素ガスがシャンパンの泡のように皮膚に付着する。すると細胞が酸素を取り込もうとし、血の巡りが良くなるのだ。温度はぬるめの36~37℃ながらぽかぽかと温まる。心臓疾患などに良いとされる貴重な湯だ。
 初代・坂内乙松さんが創業したこの宿は、90周年を迎えた老舗。現在は四代目の譲さんが専務を務め、母・サキノさんと若女将(わかおかみ)の美枝さんが力を合わせて秘湯を守る。「坂内家は代々お人よし。父・紀由も裏表のない面倒見のいい人間です。『人を大事にしなさい』とよく言われたものです」と譲さん。その血を引いた譲さんも、赤カボチャや金鮎(きんあゆ)など金山町(かねやままち)の名産品を広めようと尽力する。

 湯を浴びて野尻川を見下ろす和様式のロビーを訪れると、夕食を作り終えたサキノさんが座っていた。「ここは人間らしく落ち着いて生活ができる所。泊まっている間は、ゆっくりと流れる時間に身を委ねてほしいですよ」と目を細める。これからの季節、寒気と大雪がやってくるが、そのはっきりとした四季こそ魅力であり、恵みをもたらすという。「しっかりと雪が降った年の山菜はおいしいんですよ。雪の下でたっぷり水分を吸って柔らかく育つから」。そんな地の素材をふんだんに使った、奥会津の郷土料理が身も心も温めてくれる。なによりも親戚の家へ遊びに行ったような家庭的な距離感が心地よい。旅館の魅力は「人と会いに行く」ということ。そんな思いをもてなす側が大切にしているからこそ、心底くつろげるのだろう。

温泉情報

えびすやりょかん

福島県大沼郡金山町玉梨横井戸2786-1

TEL:0241-54-2211

宿泊料:1泊2食付き11880円~(平日2名1室の場合の1名料金) 

カード:使用可 客室数:14室

風呂:男女別内湯各1、男女別露天風呂各1、貸切風呂1

泉質:ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫黄塩泉

主な効能:心臓疾患、血行不良、冷え性、肩こりなど

アクセス:(電車)JR磐越西線・只見線会津若松駅から只見線で2時間「会津川口駅」下車。「会津川口駅」から送迎あり、5分(前日までに予約)。(車)磐越自動車道「会津坂下IC」から国道252号などを経由し50分

本内容は、男の隠れ家2015年2月号(2014年12月27日発行)から掲載内容の一部を
再編集した、東北観光推進機構と男の隠れ家によるコラボレーション企画です