せせらぎの音が心地よい渓流沿いの宿で乳白色の癒し湯に浸かる

しんしんと降り積もる雪の中、宿の中は汗ばむほどに暖かい。
この地で太古より作られてきた熱い蒸気が、建物全体を温めているためだ。敷地に湧き続く源泉は、乳白色ににごり、広い混浴露店風呂を満たす。
渓流の音を聞きながら浸かるひととき、人の温もりも心に染みる。

文◎秋川ゆか 撮影◎渡部健五

効能豊かな湯の恵みと
山里の豊かな美味を楽しむ

 冬、宿へと向かう道はモノトーンの世界になる。温泉があるのは十和田八幡平(はちまんたい)国立公園内。毎年11月初めから通行止めになる八幡平樹海ラインの手前だ。温泉までの道は除雪されているが、左右の原生林は深い積雪に覆われ、降りしきる雪の中、木々の枝だけが淡い墨色をまとう。
 松川渓谷の渓流沿いを進むと、やがて、冷気の中に上がる湯煙が見える。かすかな硫黄の香り。川のそばには太いパイプが延びる。日本で最初の地熱発電施設「松川地熱発電所」の蒸気輸送管だ。松川温泉にある3軒の温泉宿はどれも、この熱い蒸気を使って暖房しているという。

 目指す松川荘は、渓流に架かる小さな橋を渡った先にある。玄関前に枝を伸ばすナナカマドの、真っ赤な実が雪に映える。
「今日は大変な雪の中を……」
 そんな言葉にねぎらわれつつ、入った館内は実に暖かく、迎えてくれる女将の笑顔もまた温かい。
 松川温泉は、江戸時代に西念という探検家が発見し、その子の与次郎が1743年(寛保3)に開湯した山間の秘湯である。3つの自家源泉を持つ松川荘は1960年(昭和35)に湯治場として開業。徐々に増築や改装を加えて、旅館らしい快適さを増していった。東日本大震災で源泉ポンプの一つが故障し、今は使用している源泉は2つだが、湯量は全く心配がいらないほど豊かだ。
 案内された本館客室は、3年前の改装で部屋数を大きく減らしたとのことで、ゆとりある空間に。トイレや洗面も広く使いやすい。ベッドを設えた和洋室の特別室もある。

 部屋でひと息ついたらさっそく風呂だ。渓流のほとりに設えた、ひょうたん形の混浴露店風呂は、この宿一番の名物。しかし露天風呂への気持ちを抑えつつ、まずは内湯へ。ここが予想以上にいい。2つの湯船それぞれに別の源泉がかけ流されていて、泉質の違いを楽しめるのだ。
 手前の湯船は「新湯」。熱く透明な湯に、柔らかな黄白色の塊が漂っている。硫黄の匂いもいかにも新鮮だ。奥は「鶺せ きれい鴒の湯」。薄く白濁しており、ぬるめでまったりとした印象である。口に含んでみるとわずかな酸味と苦みがある。温泉成分分析表を見ると、「新湯」はpH4・3で成分総計が4056㎎/㎏。成分が濃く、特にカルシウム分が多いことで、湯の花が固まりやすいのか。「鶺鴒の湯」はpH3・6で成分総計2602㎎/㎏と酸度が高めだ。

本内容は、男の隠れ家2015年2月号(2014年12月27日発行)から掲載内容の一部を
再編集した、東北観光推進機構と男の隠れ家によるコラボレーション企画です