「これぞ日本」豊かな自然と長い歴史が築いた絶景温泉

 特定の成分を含んで地中から湧き出る「温泉」。湯船にたっぷり張られた温かい湯に浸かることで疲労回復やリラックス効果が得られるだけでなく、温泉に含まれる成分が体のさまざまな症状を緩和してくれる効果も期待できます。


 温泉が湧く地には、古くから療養や観光で多くの人が訪れたことで、次第にその土地ならではの温泉文化が築かれていきました。大自然と一体化した野趣溢れる秘湯から、立ち並ぶお店をめぐる街歩きが楽しい温泉地まで、その特色はさまざまです。


 東北各地にも個性豊かな温泉地が多数存在しますが、今回紹介するのは、豊かな大自然の中にひっそりとたたずむ秘湯でありながら、その唯一無二の存在感から全国の温泉ファンから「一度は行ってみたい」と熱い注目を集めるスポットです。


 昔ながらの日本情緒を漂わせるノスタルジックな景観。春の桜、夏の木々の緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、大自然の絶景を眺めながら開放的な湯浴みが楽しめる温泉。どれをとっても「日本らしさ」そして「東北らしさ」をより色濃く感じさせる名湯です。

日本中の温泉ファンに愛される絶景秘湯『乳頭温泉郷』

(画像提供:乳頭温泉組合)

 秋田新幹線で秋田県に向かい、JR田沢湖駅からバスに揺られて約50分。移動時間の長さに比例して高まる期待以上の感動をもたらしてくれるのが、温泉ファン憧れの地『乳頭温泉郷』です。さまざまなメディアによる“全国の人気温泉地ランキング”でしばしば1位を獲得するこの温泉郷の魅力は、大きく分けて2つあります。


 1つは、手つかずの大自然の中に多種多様な泉質の温泉が湧いていることです。『乳頭温泉郷』があるのは、ブナの原生林が残る十和田八幡平国立公園の中にある乳頭山のふもと。そこには多種多様な泉質を持つ源泉が10種類以上も湧き、点在する7軒の温泉宿がそれぞれ独自に源泉を保有するという、全国でも珍しい特徴を持っています。


 たとえば、温泉郷の中で最も歴史が古い『鶴の湯温泉』には、泉質が異なる4種類の源泉があります。見た目はどれも白濁した湯ですが、含まれる成分はそれぞれに異なるため4種類の肌触りや効能を楽しむことができます。特に白濁の湯が足元から湧出する露天風呂は、『乳頭温泉郷』のシンボリックな存在として知られています。


また、アンティーク家具に彩られた和モダンの温泉宿『妙乃湯』には2つの源泉があります。天候などによって色が変わる濁り湯「金の湯」、無色透明で肌あたりが柔らかい「銀の湯」があり効能もそれぞれに異なります。

(画像提供:乳頭温泉組合)

温泉郷で最も近代的な施設を持つ『休暇村乳頭温泉郷』も、2種類の源泉から湯を引いています。湯はそれぞれに広い湯船をなみなみと満たし、湯浴みを求める人々をあたかかく迎えてくれます。

(画像提供:乳頭温泉組合)

 そして『乳頭温泉郷』のもう1つの特徴が、昔ながらの温泉郷の風情を今も残していることです。『乳頭温泉郷』は、温泉に浸かって病気やケガの療養を行う「湯治場」として古くから親しまれ、多くの人々が長期の湯治目的でこの地に滞在しました。そのノスタルジックな湯治場の趣が大自然と美しく調和し、まるで絵に描いたような「伝統的な日本の景色」を体現しています。

 たとえば前述の『鶴の湯温泉』は、江戸時代、秋田藩主の湯治場だった由緒ある温泉です。藩主を警護する武士が詰めた茅葺き屋根の長屋「本陣」が残っており、昔ながらの部屋に宿泊することが可能です。温泉郷随一の温泉湧出量を誇る『黒湯温泉』も、江戸時代から湯治場として親しまれた歴史ある宿です。茅葺き・杉皮葺き屋根の宿舎や湯小屋が寄り添うように軒を連ねる様子は、昔ながらの湯治の風情そのもの。また、小学校の木造校舎を移築した『大釜温泉』の建物もユニーク。

(画像提供:乳頭温泉組合)

ブナの原生林に抱かれるようにしつらえた野趣溢れる露天風呂が有名な『蟹場温泉』、宿舎から離れた川沿いに温泉施設を備える『孫六温泉』も、それぞれに昔ながらの湯治場の趣を今に伝えています(『孫六温泉』は改修工事のため休業中)。


 こうした個性豊かな温泉をより楽しめるよう、温泉郷では7軒の宿の湯にお得に入浴できる「湯めぐり帖」が販売されています(宿泊者限定販売)。各温泉宿を結ぶバス「湯めぐり号」が運行されているので、「湯めぐり帖」を片手に、バスに乗って日本を代表する秘湯をめぐるのもおすすめです。

和洋折衷の木造建築群が比類なき存在感を放つ『銀山温泉』

 宮城県との県境に近い山形県尾花沢市、奥羽山脈の山あいにひっそりとたたずむ『銀山温泉』には、その特別な景観を一目見ようと国内外から多くの観光客が訪れます。この温泉地を特別たらしめるのは、およそ100年前に完成した建物が立ち並ぶノスタルジックな街並み。銀山川の両岸、300mほどの距離に日本と西洋の様式が融合した3~4階建ての木造建築群がひしめき、まるで映画の世界のように非日常の趣をたたえています。


 『銀山温泉』の名称は、かつて近隣に銀の鉱山があったことに由来しています。温泉は約400年前に発見され、鉱山作業員たちの癒やしの場、また湯治場として親しまれました。


 近代化が推し進められていた昭和元(1926)年に源泉から多量の湯が湧き、その前後に各温泉宿は一斉に建物を建て替えました。当時流行していた洋風のテイストを取り入れた木造建築はこの時代独特の和洋折衷をなしており、しばしば“大正浪漫”というキーワードで表現されます。


 「銀山温泉バス停」でバスを降り坂道を下ると、温泉街の入り口「白銀(しろがね)橋」に到着します。そこから景色は一変し、目線の先にはさらさらと流れる銀山川と、その両岸には古き良き建物たち!ぜひ川岸をそぞろ歩きながら、その風情を堪能しましょう。銀山温泉に宿泊するなら、チェックイン後、宿で用意している浴衣に着替えて下駄に履き替え、浴衣姿で温泉街を散策するとより一層日本情緒が感じられます。

(写真提供:尾花沢市)

 温泉街の景色は日中も素晴らしいですが、夜もまた格別です。街には夕暮れからガス灯がともり、温泉宿からこぼれるオレンジ色の照明とともに辺りをあたたかく染め上げます。さらに、季節によって景色の美しさが異なって見えるのも『銀山温泉』の魅力です。最も人気の季節は、街並みが雪に覆われる冬。白銀の世界がガス灯のあかりに照らされる夕暮れは、より一層ロマンティックな雰囲気を醸し出します。

(写真提供:尾花沢市) 

宿泊をする際は、温泉街にある13軒のお宿から選べます。なかでも『銀山温泉』を代表する景観として親しまれるのが『能登屋旅館』。大正10(1921年)に完成した木造3階建ての建物は、国の登録有形文化財に登録されています。木のぬくもりに歴史を感じさせる、館内の見所も多いお宿です。

(写真提供:尾花沢市)

また世界的建築家である隈研吾氏の設計で大正時代の建物をリノベーションしたスタイリッシュな『藤屋』、

(写真提供:尾花沢市)

登録有形文化財に登録された佇まいはそのままに、より一層ノスタルジックな趣に改修し2022年にオープンした『本館古勢起屋』など、どの宿も温泉街を形成する景観を守りながら個性豊かなおもてなしを展開しています。

(写真提供:尾花沢市)

 温泉は無色透明で「あたたまりの湯」として知られ、保湿成分が多く含まれるため、湯上がりにはしっとりもちもちの美肌に導いてくれます。各温泉宿の浴場は、それぞれ趣向を凝らしたデザインや景色が魅力。たとえば温泉街のほぼ中央に位置する『昭和館』の浴場は、最上階から温泉街を見下ろし源泉かけ流しの湯を楽しむ「天空露天風呂」が人気です。温泉街には日帰り入浴ができる共同浴場もあり、料金を払えば誰でも入浴を楽しむことができます。

時を忘れて大自然の名湯に浸かる『芦ノ牧温泉』

 福島県会津若松市の市街地から車や電車で約30分。開湯から千数百年の歴史を誇る『芦ノ牧温泉』は、今では良好にアクセスできる立地ですが、かつては行き着くのが困難だったことから“幻の温泉郷”と伝えられてきました。自然に恵まれた静かな山あいの地、ゆったりと蛇行する阿賀川(あがのがわ)を見下ろす高台に温泉街が形成されています。


 『芦ノ牧温泉』の魅力は、何といっても大自然が織りなす絶景と質の良い温泉です。温泉街があるのは、阿賀川が作り出した深い断崖絶壁の上。そこからの景色を見渡すと、川面はエメラルドグリーンに輝き、川を挟んで向かい側にはすぐそばに山々が迫ります。豊かな自然に囲まれ、四季折々の見事な渓谷美を愛でることができるのです。

そしてその絶景は、温泉に浸かりながら堪能することもできます。『芦ノ牧温泉』の湯は、源泉の湧出時の温度が高く湯量も豊富で、質の良さに定評があります。その湯に身を委ねて雄大な自然と一体化する体験こそ「日本の温泉」の真骨頂といえるでしょう。


 『芦ノ牧温泉』には、現在8軒の温泉宿があります。家庭的な雰囲気の小規模のお宿から客室数100室以上の大規模旅館まであり、好みに合わせて滞在することができます。

 近年特に話題を集めているお宿のひとつが、温泉街最大の客室数を持つ『大川荘』です。玄関をくぐるとその先には、広大な吹き抜け空間が広がります。底に水が張られた池の上に階段や回廊が走り、赤い毛氈が敷かれた中央の浮き舞台では着物を着た女性が三味線を弾いてもてなしてくれます。この非日常的な空間が、人気漫画『鬼滅の刃』に登場する「無限城」に似ているとSNSなどで話題になり、多くのファンが宿泊に訪れ浮き舞台での記念撮影を楽しんでいます。

 また長さ約30mの湯船に浸かり、総ガラス張りの窓から雄大な渓谷を一望する『本館丸峰』の渓流展望風呂や、川面と山々の絶景がすぐ目の前に広がる『渓山』の貸切露天風呂などでは、ダイナミックな眺望と開放的な湯浴みを楽しむことができます。

 宿泊の前後には、『芦ノ牧温泉』を満喫する散策も楽しんでみたいところ。温泉街の中には「かがやき公園」「足湯 足ぽっぽ」「金精神社・子宝の湯」と3か所の足湯スポットがあり、散歩がてら足湯のはしごを楽しむことができます。


 さらに『芦ノ牧温泉』の周辺には、会津を代表する観光スポットが数多くあります。伝統的な茅葺き屋根の民家が今なお残る宿場町「大内宿」や、国内唯一の赤瓦をいただく天守閣の「鶴ヶ城」などは、『芦ノ牧温泉』を訪れたらぜひ足を伸ばしたい観光名所です。もし電車を活用して各観光スポットにアクセスする際は、温泉街の最寄り駅「会津鉄道 芦ノ牧温泉駅」で駅長を務める猫「さくら」にご挨拶するのもお忘れなく。

入浴前に知っておきたい温泉の基本マナー

(画像提供:乳頭温泉組合)

 日本人にはなじみの深い温泉ですが、海外からの旅行者など温泉入浴が初めての方は、入り方やマナーが分からないかもしれません。ここで改めて温泉入浴の基本マナーをご紹介しましょう。


 温泉宿に宿泊する場合、客室に用意されたタオルやバスタオルを持って浴場に向かいましょう。浴場入口は、男性用には青、女性用には赤ののれんがかかっていることが多いです。中の脱衣所には私物を保管するバスケットが置いてあるので、バスタオルや脱いだ服などを入れます(入浴時は下着も脱ぎます)。貴重品を持っている場合は、脱衣所内にある貴重品ロッカーを使いましょう。


準備ができたら、体を洗うタオルを持って浴室に入ります。浴室は、大きく分けて室内に湯船がある「内湯」と、屋外に湯船がある「露天風呂」があります。露天風呂には体を洗うシャワーや洗い場がない場合があるので、先に「内湯」に入ることをおすすめします。


湯船に浸かる前に、湯船の湯を汚さないように洗い場で体と髪を洗います。洗い場にある備え付けのシャンプーなどは、自由に使うことができます。洗い場でシャワーを使う時は、周りの人に湯がかからないように注意しましょう。髪が長い人は、洗った後に頭の上でまとめて湯船に入らないようにします。


 湯船に入る時は、急激な血圧上昇を防ぐためにかけ湯を行いましょう。桶に湯船の湯をため、心臓から遠い足先から徐々に湯をかけ体を湯の熱さに慣らします。その後足からゆっくり湯船に浸かり、腰上ぐらいまで湯に浸かる半身浴を楽しみましょう。慣れてきたら肩まで浸かり、全身浴を楽しみます。周りの景色を楽しみながら、温泉の感触を満喫しましょう。なお体を洗ったタオルは、湯船に入れないのがマナーです。


温泉が体によいからといって、長く浸かるとのぼせや湯冷めの原因になります。軽く汗ばんできたら、湯船からあがるタイミングです。浴室から出る時は、脱衣所の床を濡らさないようにタオルで体の水分をふき取ってから脱衣所に戻ります。その際、温泉の薬効効果が薄れないよう、シャワーなどで体に付いた温泉を洗い流さない方がよいでしょう。ただし肌が弱い方、刺激が強い泉質の場合はこの限りではありません。


風呂あがりは、体を休めるため30分~1時間程度休憩するとよいでしょう。入浴で体内の水分が失われているので、しっかりと水分補給をします。なお温泉に入浴する際は、食事の直前・直後は避けるほうがよいでしょう。飲酒の後の入浴は控え、激しい運動の後はしばらく休んでから入浴します。また湯あたりを避けるために、入浴は1日2~3回にとどめるのがよいでしょう。

(画像提供:乳頭温泉組合)

温泉は、入り方次第で健康増進の効果が促進されます。体に負担をかけない上手な入浴の仕方で、心身に効く温泉をたっぷり楽しみましょう。

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  • 日本中の温泉ファンに愛される絶景秘湯『乳頭温泉郷』
  • 和洋折衷の木造建築群が比類なき存在感を放つ『銀山温泉』
  • 時を忘れて大自然の名湯に浸かる『芦ノ牧温泉』

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